2009年5月13日水曜日

何故、キャンペーンが上手くいかないか①

前回の続編として「何故、キャンペーンが上手くいかないか」を書いてみたい。
前回の「アウトバウンドうざい」を読まれ「何を、誰に、どうやって」で考えるから駄目。と書いた訳だが、耳慣れた方であれば、「何だ4Pでは無くって4Cで考えなさい」という話か?と思われた方も居るだろう。

4Pというのはご存じの通り
「製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)」の略で、
マーケティングミクスを構築する際の有名なフレーム。ただし、4Pだと顧客視点では無いという事で言われ始めたのが4Cで、
「顧客価値(Customer Value)、顧客コスト(Customer Cost)、コミュニケーション(Communication)、利便性(Convenience)」で考えなさいというもの。

正直、小生、これ4Pも4Cも同じ事を言っているだけとしか思えないので、ここで、くどくど説明する気は無い。お好きな方をどうぞ!って感じ。ついでに4P、4C自体どうでも良い(こんな事言うと怒られそうだが)

また「アウトバウンドうさい」見たいな話しをすると、なんだ「CS(顧客満足)の話し」ね!とか短絡的に考える方も居るが、この際「CS」も、どうでも良い(これも怒られそうだ)

小生なりの結論を言おう、重要なのは「顧客起点」で「顧客心理」を考える事。
なんだそんな当たり前の事か?と思われるかもしれないが、では、何故大手カード会社があの様な最悪のキャンペーンを張ってしまうのか?

少なくとも、コンシューマ(一般消費者)相手のビジネスをしている大手企業のマーケティング担当者は、相当な勉強をしているし、各種マーケティングキャンペーンを成功させて来た自負もある。膨大なデータもある。
コンシューマ相手のマーケティングに関して、小生が論戦を挑んでも、あっと言う間に論破されてしまうだろう。
にも関わらず、何故「最悪なキャンペーン」を手間暇掛けて行ってしまうのか?

「顧客起点」「顧客心理」という二語で、勘の良い方なら、ある人物を想像しただろう。そうセブンアイの鈴木敏文氏だ。
最近、イトーヨーカドーのキャンペーンで「下取りセール」と言うのをやっていたのをご存じの方も多いだろう。同氏へのインタビュー記事やTVでも紹介されている。小生は同氏の公演でこのセールの話しを聞いた。

要約すると、
①近年は顧客の価格に対するロイヤリティーが失われている。定価に対しての信頼感が無い。
→オープン価格や、ディスカント、セールの日常化によって定価の3割引きと謳われても、顧客自身が○割引に慣れ過ぎて、定価なんてあって無い様なものでしょ?どこでも3割引き、探せば4話引きとかで売られているんでしょ?と感じて来ている為、「普通に○割引セール」とキャンペーンを張っても、殆ど効果が無い。例え実際には小売として相当の値下げ努力をしていても。

②定価で売っても、キャシュバックした方が信頼される。
→具体的に○円戻ってきます。と、した方がロイヤリティが得られる。しかし単にキャッシュバックしますでは訴求力に欠ける。
今はモノ余りの時代で、家の中には使ってないけど、捨てられないモノが一杯ある。そういうモノを引き取って、目に見える「お金」という形で換金する事で、心理的な壁が無くなる。結局は同じ値下げでもよっぽど効果的が得られる。

実際にこのキャンペーンは相当な成果を上げたそうだ。事実小生の嫁も、まんまとこのキャンペーンに引っかかっていた。

また、例の如く、このキャンペーンも社内からは、2割引き、3割引きで売っても売れないのに、そんな事やっても効果が無いと言われたそうだ。同氏の著書を読んだ事のある方なら周知とは思うが、ここでも「周りが反対する事をやると成功する」「売り手発想では無く顧客心理から考える」という例の法則を、また成功させた訳だ。「売り手発想だと、直ぐに5割引きとかそう言う方個性に走ってしまう」との事

無論、この話しを聞いてキャンペーンの種明かしをされても「あっ!確かに、なるほど!」との想いは持っても騙されたとは思わない。

~~以下は完全な小生の仮説として書く。(本当に大手カード会社の内情がそうであると告発するものではない)

一方カード会社の最悪なキャンペーンはどうだろうか?

①利用状況が急に上がった会員は、キャシングに対するニーズが高い。
→利用状況のデータから最近利用が急に増えてきた会員ならば、現金に困っている事が多くキャシングの利用をする可能性が高い。事実そういうデータも取れている。

②キャシングは銀行、消費者金融、他カード会社など、様々なコンペチターが居る。自社のカードのキャッシングを利用してもらう為の後押しが必要。
→金利の引き下げや、ポイントを倍して、一部の方だけの特別キャンペーンとして認知してもらう。

この様なキャンペーンも、「顧客心理」から考えられたものでは無いのか?「下取りキャンペーン」とどう違うのか?




・・・・・そう、発想の起点が「顧客か、売り手か」の違いである!
「下取り」と「最悪」の①、②を良く読み比べて欲しい。



マーケッターが陥る最大の課題は正にここにある。

「売り手起点で4P(4C)を構築しても全く意味がない」
「売り手起点で顧客心理を考えても全く意味が無い」

売り手起点で発想されたキャンペーンは、この後、では、具体的にどうやってキャンペーンを張ろうと検討される。「最悪キャンペーン」の例の場合、プロモーションは利用明細や、Webの会員個人サイトでは、明らかに訴求力が弱い。では直接電話しよう。社員を使うとコストが高いので「業者」を使おう。平日だと電話に出ない可能性が高いので、日曜日の昼にしよう。
こうやって「最悪キャンペーン」が実施されてしまう訳だ。「顧客起点で顧客心理」をしっかり検討していたら、日曜日の昼間に借金の勧誘電話をする事の愚かしさに真っ先に気づく筈だ。

鈴木敏文氏の「顧客起点」「顧客心理」というのは、言葉にするのは簡単だが、実践するのは酷く難しい。「顧客起点」で「顧客心理」を読んだつもりでも、実際には「売り手」起点になってしまっている事が実に多いのだ。

また、同氏の「周りが反対する事をやると成功する」と、
小生が書いた。
消費者自身が種明かしされた時に「あっ!確かに、なるほど!」と思える。
の二点には、実に重要なインサイトが隠れている。

「最悪キャンペーン」にこの二点をあてはめて欲しい。

「データから急に利用が増えた会員は、キャシングに対するニーズが高い様です。今は不景気でカードの利用自体の増加は見込めません。該当会員に対して、キャンペーンを打ちたい」と社内で提案した場合、反対する人がどれほど居るだろうか?

また、この様な社内の検討があってこの様なキャンペーンをやってみました。と種明かしされた消費者が「あっ!確かに、なるほど!」と思うだろうか?

これは「最悪キャンペーン」に限った事では無い。殆どのキャンペーンが「3割引きで駄目なら、5割引で頑張ろう」になってしまうのだ。

消費者として、そのキャンペーンを種明かしされた際「あっ!確かに、なるほど!」と思えるかどうか?をマーケティングキャンペーンを検討する際に重要なバロメータとして認知してみては如何か。

次回、失敗戦略や失敗キャンペーンが企画されてしまうメカニズムに関して記載したい。

2009年5月11日月曜日

アウトバウンドうざい

日曜日のお昼。家族団欒の時を過ごしているとき、一本の電話を嫁が受けた。

嫁はカード会社からTELとの事だったので、何の疑いもなく私に電話を回したわけだが・・・カード会社からの電話など掛って来た記憶が無いので、少し「ドキッ」とした。カードを落とした?とか不正利用?とか残高不足で引き落としが間に合わなかった?とか。

内容は「今キャッシングをご利用頂くとポイントが倍になります。金利も安いです」という宣伝を一方的に3分程。「キャッシング」って様は無担保ローンだからサラ金と一緒。利用しようと思った事は一度も無い。借金を勧める電話を家族団欒の真昼間に受けていい気分になる訳もない。小生あんまり怒ったりするのは柄では無いので聞くだけ聞いて電話を切ったのだが・・・

実は、このカード会社のカードは5年ほど前、あるショッピングモールでキャンペーンをやっている時に作ったものだ。カードを作ると全品2割引きで年会費無料という事で定価が50万程する時計が、セールで30万になっていてカードを作ると更に6万円引き!なので問答無用で入会したが、メインのカードは別のカード会社の物を使っていたので、それっきり全く使っていなかった。

しかし、1年程前そのメインのカードにある問合せをしたところあまりに腹の立つ対応をされたので、もうここのカードを使うのは辞めようと思い(この時も優しい小生はこの担当者には何も言わず)それからはショッピングモールで作ったカードをメインカードに切り替えた。

ここからは単に推測でしかないが、このTELを掛けてきたカード会社は会員数は業界トップクラスの会社なので、会員数は数千万になる。全員にこの様なアウトバウンドコールをするのは現実的では無い。だとすると、何かしらのデータから抽出してターゲットを決めて掛けてきたに違いない。急に利用が増えた会員をデータからリストアップしてTELして来たのではないだろうか?
マスでは無く、データからターゲットを決めて、キャンペーンを張るのはもはや常識的すぎる手段だ。
確かにこのキャンペーンで、キャッシングの実績が何パーセントか上がるかもしれない。不景気なこのご時世に急にカードの利用額が上がっている会員なら、効果度は高いだろう。そうなればターゲッティングの冥だと親会社の銀行もホクホクだろう。

また、この様なアウトバウンドコールは自社の社員では無く、ほぼ間違い無くどこかのアウトソーサに委託する。
試しにWebで「営業 BPO」(BPOはビジネスプロセスアウトソーシングの略)で検索してみれば、その様な業者が山の様にある事に気づくだろう。
TELアポやアウトバウンドコールは外部に委託し、そこで引っかかった良質なリード(見込み客)は自社の営業マンが対応する。とか。形態は色々。確かに労働単価の高い自社の正社員営業マンがTEL掛けまくるというのは非効率だ。最近は営業アウトーシングとして、クローズ(受注)までを成果報酬などで請負う企業も多くなった。

このカード会社は、「業者を使い効率的に実績をあげられる有効な手段」を実施したと満足かもしれない。

なるほど「売る側」の理屈としては「効率的」かもしれない。

しかし、常識的に日曜日の真昼間に「キャンペーンやってますので借金しませんか?」と電話を掛けてこられて、いい気分になる顧客がどれほど居るだろうか?少なくとも小生はこのカードも解約かメインカードからの降格の対象になっている。

業者はノルマをこなすだけで、与えられたリストから、何人に電話を掛けて、何人と繋がって、何人が最後まで聞いた。というデータを、依頼主に返して報酬を得るだけだ。
もちろんアウトーソースの形態や業者の質も様々だし、一概に否定する訳ではないが、本当に顧客と自社の商品やサービスに愛着を持って「業者」が接するだろうか?大切な「顧客接点」を業者にアウトソースする事の意味をよくよく再考した方が良い。

もちろん「業者」かどうかは小生が勝手に言っているだけで、本当のところは解らない。
しかし、どちらにせよ、彼ら(このカード会社)は、少なくとも小生の事など全くどうでも良い顧客だという事は良く伝わった。

「業者」と共に、コンサルとかマーケッターが口にする「ターゲティング」や「セグメンテーション」には多くの「嘘」がある。自社起点で「何を?誰に?どうやって売るか?」のロジックになってしまっているケースがあるからだ。コンサルやマーケッタ自体も「業者化」している証拠だろう。
それって基本じゃないの?と思った方は要注意!これのマズさはまた機会があれば説明したい。

このカード会社も他に漏れず、会社概要には「お客様の多様なニーズに的確お答えして・・・」なんて書いてある訳だが、
小生のニーズは「借金」か!!!