2009年4月13日月曜日

プリウスとレクサス

ホンダのインサイトが189万円ならトヨタの新型プリウスは205万円。
かつて日産ブルーバードとトヨタコロナで過剰な販売合戦が行われ「BC戦争」と称された事があるが、今度はハイブリッドカーを主力とした「PI戦争」と言うべきか。

今回、新型プリウスは当初、現行型より値上がりするとみられており、一番安いモデルでも250万円位のプライスタグがつけられるとの大方の予想であった。しかしインサイトが189万円で、予想を上回る受注を得た結果205万円での販売を踏み切らせたのは間違いない。
ハイブリットの仕組みの違いや、ベースとなるプラットフォームの違い、等々を考えるとあからさまなインサイト潰しであるとの声が上がるのも無理は無い。しかし何故そこまでするのか?をもっと踏み込んで考えると直接「インサイト」を潰す。よりももっと広義で「ハイブリッドカー=トヨタ」というブランドを守りたいのでは無いかという気がしてならない。

トヨタが初代プリウスを販売したのが1997年である。価格は215万。世界初の量産ハイブリッドカーであり、この価格で出すのは戦略的な価格であって「売れば、売るほど赤字」では無いかと言われた。初代プリウスのプラットフォームはプレミオ/アリオンという中型車と共有していると言われ、そのプラットフォームに完全に独自のハイブリット技術を盛り込んだのだから、初代においてもバーゲンプライスだったのは言うまでもない。
ホンダはその2年後に初代インサイトを発売するが、これは2名乗車であり、いろいろな面で「買わないでくれ」オーラに満ちていた。一先ず燃費世界一でトヨタに負けていないというメッセージを出す事が重要で、ホンダにしてもインサイトは売れば売れるほど赤字だったのだろう。
技術的にもトヨタのハイブリットはモータのみで独立して駆動するのに対して、ホンダのハイブリッドはあくまでモータはエンジンの補助動力という扱いである。(それは今でも変わらない)

しかしトヨタは215万のプリウスを本気で販売した。いち早くブランドを確立。部品コストの量産効果を得たかったからで、その戦略は見事に成功した。今のところハイブリッドカーと言えばプリウスであり、エコカーで最先端を行っているのはトヨタというイメージを市場に作る事に成功した。この為、技術は進化し、コストは下がり、ブランド力は向上するという、先行者として、教科書どおりの戦略で成功を収めた。

今回の新型プリウスは205万でもちゃんと利益が出る様になっていると踏んでいる。流石に昨今の経済情勢と「売れるプリウス」で、売れば、売るほど赤字という訳には行くまい。で、あるならばトヨタが利益が出るギリギリのラインまで価格を下げてもインサイトを潰し、プリウスブランドを守るのは当然である。
一方のホンダは初代インサイトの後ハイブリッドを止めた訳では無く、現在でも現行インサイトの前からシビックハイブリッドを販売している。現行のシビックハイブリッドは229万からである。シビックより格下のフィットがベースとなっているインサイトの価格が189万で安いと言われているのだから、決して高い価格では無い。しかしこのシビックハイブリットは恐ろしく売れていない。

決論から言ってしまえば、新型インサイトはプリウスの様な形をしているから売れた。ホンダにしてみれば、初代インサイトの形を引き継いでいる。とか、空力を追求した結果。とか「言い訳」は一杯できるが、実際のところ初代インサイトの形なんて相当なマニアじゃなきゃ覚えていないし、ハイブリッドカーで無い車種で素晴らしい空力を実現している車も多く存在している。

消費者の視点から見れば、シビックの形をしたハイブリッドカーはハイブリッドカーとして認知させず、プリウスの形をしたインサイトこそがハイブリッドカーなのである。ホンダはトヨタの作った「エコカー=ハイブリッドカー=プリウス」に上手く乗った形であって、言い代えればインサイトは「ホンダの作った安いプリウス」なのである。

そう考えると「PI戦争」もう勝負はついてしまったかも知れない。


だからという訳では無いが、もう1点の論点を加えたい。それは「レクサス」だ。すでに一定の成功を収めた北米でのレクサスでは無く、あくまでも国内における「レクサス」だ。
2003年から開始した、国内でのレクサスの販売状況は惨憺たる現状だ。2008年上期で1万5000台で計画の約半分という状態だから、2008年下期、2009年上期は壊滅的状況だろう。
この不振に対してもいろいろな事が言われている。「訪問販売をしない営業方針に問題がある」「性能、品質面でまだまだ独高級車などに及ばない」etc・・小生いまいちしっくりこない。

そもそもトヨタはなぜ国内でレクサスの販売を始めたのか?
理由は簡単である。少子高齢化、人口減の日本においては薄利多売では無く、一台あたりの利益率を高める必要があるからだ。自動車の場合、メーカの台あたりの利益は販売価格の1割~2割と言われている。すなわち利益率が仮に1割だとして100万の車を10台売っても利益100万だが、1000万の車を2台売れば200万の利益が出る。一般には利益率は高級車程出るので(おそらく1000万の車なら300万は堅そう)この点を考えると、人口減の日本においてトヨタがレクサスを展開したのは至極妥当な判断だったと思える。もちろん、すでにイメージが出来上がっている「トヨタ」ブランドで展開するのは限界がある。なのでホンダは「アキュラ」日産は「インフィニティ」といった北米でのブランドを日本に持ち込む時期を「レクサス」の状況を見ながら見計らっている。

何が言いたいか?日本における「レクサス」という組織は「利益」を挙げる事を目的に作られた組織なのではないのか?(内部の事情は知らないので、本当の所は知りえないが・・)

北米、欧州においては既にレクサスブランドだった、日本におけるアルテッサ、ソアラ、アリスト、セルシオ、ハリヤーといった車種をモデルチェンジ、もしくは一部改良して「レクサス」として販売した。もちろん利益率は相当高いと想像できる。
(だからと言って、ベンツやBMWの日本における利益率がレクサスに比べて低いとは思えない。)
しかしこれでは消費者がわざわざ高いコストを支払い、高い利益をメーカに与えるインセンティブはどこにも無い。ゴージャスなディーラの「おもてなし」対して払うのか?もちろん「組織」の言い訳としては、性能、品質、価格、サービスどれをとっても「ベンツ」や「BMW」より素晴らしい。と言うだろうし、実際にそういう面も多いのだろう。しかしそれは「組織」としての「言い訳」にしかならない。

ブランド構築の方法論が完全に逆である。もし「レクサス」組織の存在目的が「利益」であるとするならば、今すぐにでも改めるべきである。

もっとハッキリ言おう!
「レクサス」は今のところ「シビックハイブリッド」でしか無い。

「レクサスって何?」と聞けば「トヨタの高級車ブランド」と答える人が多いだろうが、「高級車って?」と聞いて「レクサス」と真っ先に答える人は少ない筈だ。既存車種である「シビック」にモーターを加えてハイブリッドカーです。もしそれが「プリウスより価格も性能の優れています。」と言っても誰も相手にしない様に、既存車種に高級車の要素を加えて「高級車です」といっても通用しないのだ。

レクサスに割り当てられた技術者達が既存プラットフォームや共有化された部品の中で「利益率」を意識しながら車を作るのでは無く、全くのゼロベースで真の高級車を考えて作ってみてはどうか?もしかすると完成した車はものすごく利益率が悪く、かつ、今までのやり方で作った車と性能、品質面でも変わらないかも知れない。しかし、本気で高級を追求したのであれば、組織として高級に対する試行錯誤が生まれる。そうする事によって初めて「トヨタの高級ブランド「レクサス」」が誕生するのではないのか?

しかし、今もし「レクサス」が利益追求型組織のままでいるならば、既存車種の「格上げ」が終わった後に取る行為はベンツ、BMWに対する「インサイト」の発売だろう。それではエコカーの市場でイノベーションを起こしたプリウスの様に、高級車の市場でイノベーションは起こせない。私がトヨタの社長であれば「レクサス」の組織は利益追求型組織では無く、イノベーション追及型組織にする。そうした方が後々「利益」に繋がると考えるからだ。

ブランド構築は急がば回れですよヨ。トヨタさん。
ああっ・・ついでにホンダに関しては今一度「オヤジ」さんに雷を落とされた方が良いね。

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