2009年6月25日木曜日

三河の魂、千まで。

6月23日に兼ねてから言われていた様に、トヨタ自動車の社長に豊田章男氏が就任した。
これは昨年末経済危機の後の方針では無く、2007年位にはもう次期社長は章男氏であると言われていた。
当時、小生はサラリーマンで名古屋に赴任していた為、この辺の情報はかなり敏感だった。やっぱり東京で仕事している時より遥かに意識する。

その当時、親しかった外資系コンサルファームの名古屋事務所のマネージャとお酒を飲みながらこんな会話をした記憶がある。
コンサルW氏としよう。専門はMA。元々例の米不正会計事件で無くなったファームの出身で、事件後、トヨタ系の商社に勤めたが、耐えきれずにまたコンサルに戻ったというキャリアという方だ。また奥さんはご両親ともに三河出身で、トヨタを辞めるなんてあり得ない。理解不能と言われ随分苦労したそうだ(笑)

~~~
W氏:「あのトヨタですら、創業一族が経営に戻ってくるなんて全くこの地域の経営というのはどこまで遅れているのやら」
「やっぱり竹千代(徳川家康)なのかな?」
小生:「はは、確かに三河武士団なイメージあるね。忠誠心に厚いし、吝嗇(ケチ)だし」

ちなみに、愛知県は三英傑の出身地な訳だが、名古屋では、尾張出身の信長、秀吉より、三河出身の家康の方が人気がある模様。尾張徳川家の影響かもしれないが、不思議なものだ。

小生:「でもね。やっぱり最近思うのはこの地域の経営は、米国流の真似ごとは絶対しちゃいけないと思う」

W氏:「そう言えば○○○○社(三河地方の超伝統食品メーカ)は、カンパニー制を導入したけど全く機能していない見たい」

小生:「そりゃ、そうだ。というかギャグ?」

W氏:「いゃあ、□□□□(別の外資系コンサル)と組んで、かなり本気で取り組んだ見たいなんだけど」

小生:「でも、基本食品しかやってないじゃん。しかも今でもトップは歴代のオーナ社長でしょ?」

W氏:「規模が大きくなってきて意思決定の速さや、組織の自立性を高めたかったんだと思うけど、様はミーハなんですよ」

カンパニー制というのはソニーが始めたので、米流でもなんでもないが、SBU制も含め日本では多いに流行った。しかし、現時点では殆どが見直されている。NECも今年見直すそうだ。

小生「無理、無理。オーナ企業の良い処は、長期視点でじっくり腰を据えた経営ができる事でしょ。だから従業員も滅私奉公すれば、苦しくても最終的にはハッピーになれるんじゃないかと思って働く訳。社内カンパニーは全くの逆。カンパニーの社長は、自身で事業体の最終、最高責任者としてバンバン意思決定して自立して結果を出さなくちゃちゃならない。結果が出なければ責任を取らなくてはいけない。これはカンパニーの従業員も一緒。「滅私奉公」なんて感覚じゃない。しかもオーナがすぐ上にいて、自立した発想で事業を推進していける訳がない。」

W氏:「そう、だからこそ御社は意思決定のスピードが遅く、変化に対応できていない。カンパニー制を導入し・・・と、コンサル屋にころっと騙される。」

小生:「そうやって、オーナ企業と、カンパニー制、両方の良さを見事に打ち消した会社が出来る訳だ。でもそういう意味ではトヨタはぶれてないよね」

W氏:「ぶれてない。竹千代(笑)」

小生:「でも私は竹千代というより、トヨタの場合、天皇制に近いんじゃないかと思う」

W氏:「天皇制!?」

小生:「トヨタはもうオーナ企業じゃないでしょ。組織が何かしらの意思決定をする時に何を判断基準にするのか?短期の利益なのか、長期の成長なのか?特定個人の意思なのか?人と人で意思が異なる場合、何をもってジャッジするのか?」
「これは企業に関わらず、Aという人の意見と、Bという人の意見が割れた時、絶対の正しさなんて無いわけ。ジャッジできるのは
「神様」だけ。他の国は多くの部分で「神様」を「宗教観」に落として「正しさ」の判断をする事が多い。」

「実際は立場、肩書きとか、声の大きさ、多数決とか、そういった要素で「正しさ」が判断されるのだけど、本当にその判断が正しいかなんて事は誰にも解らない。酷い事を言ってしまえば「人を殺すのは良くない」というのも一つの価値観でしかない。

W氏:「確かに、解った気がする」

小生:「独裁でなければ組織においての判断はブレて当然。日本の企業は、米国の様に、短期利益や株主利益という絶対の価値観を持っていない。そういう意味では遥かに多様な価値観を持っていると思う。だからこそよりぶれやすい。これは競争において本質的な弱さを持っていると思う。」

W氏:「天皇が政治の中心にいた事は少ないけど、時の権力者は判断の度にわざわざ勅命を貰う」
「その事で、その判断の正当性を得る。逆に国事を纏める為にはそれが必要だった」

小生:「その事を、自分たち自身が理解している処にトヨタの強さを感じるんだ。それは絶対君主の様に単純なものじゃない。しかしトヨタはでかくなりすぎた。その事に危機感を抱いているからこそ、あえて大政奉還をするんだと思う」

~~~
確か、こんな会話だったと思う。今とは違い、まだトヨタが絶好調の時だ。確かにフォードも創業家の影響力が強いが、フォードの場合はフォード家が現時点でも株式の40%以上を持っている点で大きく異なる。



トヨタには色々な批判がある。QCサークルの労災裁判は有名だ。(QCサークルなどで月/100時間を超える残業で過労死したが、当初QCサークルは業務では無いとの認識から労災認定が下りなかった)もちろんQCサークルが自主的な活動で、業務では無いなどというのは時代錯誤も甚だしいと思う。その一方、過労死された方の父親もトヨタマンで「サークルは業務じゃない。裁判なんて起こすべきではない」と言っていた事は殆ど伝わっていない。息子を失って尚である。
この父親を単純に愚かと表現する気持ちにはなれない。もちろんこの事件に関して「トヨタ」や「労働基準局」の肩を持つ気は更々ないが、この父親の気持ちこそが、「トヨタ」が内面に秘める強さの秘密でもあろう。いや、かつての日本企業の強さの根幹にこの様な「気持ち」があった様に思える。

トヨタは2兆円の利益を出した昨年08年度の役員賞与が28人の取締役の総額が約10億。GMは赤字でも会長だけで15億。
単純比較はできないが、従業員の場合でも、トヨタに比べ、GMは15%~20%高額。危機的な状況でも再建が進まなかった理由として労働組合が強すぎる点が挙げられている。

経営者も従業員もトヨタマンである事の「義務」を第一義に行動し世界一となったトヨタ。経営者も従業員も、自身の得るべき「権利」を第一義に行動し、破綻したGM。

前者も後者も、どちらのままでも居られなくなった事は言うまでもない。

今まではトヨタは正社員の雇用だけは守り通してきた。なんだかんだ言って下請けも守ってきた。
しかし、いよいよ海外では正社員のリストラを予定している様だ。

ちなみに、日産はゴーンさんが来た時点で万単位のリストラを行い、系列の50%を切り捨てた。
その意味で小生はトヨタこそが「超日本型経営」であり、悪く表現するならば「日本型経営の成れの果て」だと思う。




トヨタに関する書籍は大きく二つに分かれる。徹底したトヨタ流の賛美か、トヨタこそが悪の帝国そのものであるという、ステレオタイプ過ぎる物の見方だ。

後者には些か、共産主義を夢見る古典的な左翼の香りがする。搾取する者と、搾取される者という対立軸で表現するには日産では無く、日本一の大企業で、世界一の自動車メーカであるトヨタを、シンボリックな存在として扱うにはうってつけなのであろう。
しかし、小生は逆に、少なくとも「トヨタ王国」こそが、例の将軍様の国よりよほど理想的な共産主義を実現してきた。と表現する方が本質的な気がしている。少なくとも他の大企業に比べると。

「トヨタ流」の賛美もビジネス書として読むと、実はかなり違和感を感じる。トヨタの強さの秘密は、JITに代表されるトヨタ流の生産方式にあり、如何に無駄なく、徹底して効率的に「モノ」を作る体制を取っているか。という趣旨を常にその論拠としているのだが、小生の勝手な知見ではトヨタの強さは本質は、その「販売力」にこそあると思っている。
トヨタはまぎれも無く、世界一車を「売っている」会社なのだ。効率的に品質の良い車を「作る」事が世界一の秘訣だとするならば、消費者としてみた時に他の日本車だってもっと売れて良いはずだ。


トヨタ流の本質は「もの作り」では無く「もの売り」にある。「如何に効率的に車を売るか」がJITにおいても最上流にあるのでは無いのか?だからこそ突然外部要因で「売れなく」なった時に、他よりもダメージを被った。効率良く作る為の仕組みであれば、生産調整をするだけで良いから流血はもっと少なくて済んだ筈だ。


松下(現パナソニック)においても、成長の過程において圧倒的な販売力こそがその原動力だった筈だ。「マネシタ電機」と揶揄された様に、決してイノベーティブな「もの作り企業」では無かった筈だ。

日本経済の強さの秘訣は「もの作り」にあるとして保護政策を取るのは、少々幼稚で馬鹿げていると思うのは小生だけだろうか?

因みに、小生がトヨタに就職していたら、どうだったか?恐らく半年と持たないだろうな・・・
それでもやっぱり資本主義の方が好きだから(強欲じゃない範囲で)
ただ、直接的にはトヨタと関係の無い小生にとっては、トヨタには、やっぱり一杯稼いで貰って税金を一杯納めてくれた方が理想的だ。

新社長期待しております。

0 件のコメント: