2009年2月3日火曜日

ブラック企業になれますか?

IT産業とかIT企業。という言葉はすっかり定着した感があるが、そのイメージはと聞かれれば「虚業」「如何わしい」「新3K(きつい、厳しい、帰れない)」「ゼネコン体質」と、小生が思い浮かぶだけでもマイナスイメージのオンパレードだ。

「虚業」に関しては、ライブドア事件以来すっかり定着したが、「新3K」とか「ITゼネコン」は、かなり昔からこの業界には蔓延している。SIerやソフトハウスと呼ばれる企業の多重請負体質が、その要因となっている。

小生、仕事柄このIT企業の経営層と話す機会が結構あるのだが、昨今の経済環境は当然これらIT産業へもダメージをもたらしている。もともとIT技術者はグローバル化し、中国、インドでのオフショア開発も盛んになり、人月の単価は下落傾向にあったが、それでも、つい去年の中までは、システム投資も右肩上がりだった為、業界自体はまだまだ伸びている感があった。そこへ今回の経済危機。単価が下がっている状況で、需要が一気に冷え込んだのだから、中堅以下のシステム会社(ここではあえてそう表現する)は相当に厳しい状況と言える。

「受託開発や請負派遣だけでは、もうやっていけない事は解っているので、何とか脱却したいのですが・・・」

こう言う話しは経済危機よりも前も随分と聞いたが、一気に深刻化したといえる。
しかし、残念ながら、小生「大変ですね」としか答え様がない。
「受託開発」というのは「ITゼネコン」の言葉が表わす様に、どこか一次請け、二次請け、下手をすると三次、四次・・・がいて、エンドユーザはどこかすら知らず、言われたシステム(の一部)を開発する事が多い。もしくは元請け会社に出向してプロジェクトメンバーとして振る舞う「業務請負」形式で仕事を取ってきたりする。

確かにシステム会社の中でも、元請け会社に「業務請負」として「常駐」させる事(はっきり言って偽装請負です。)を生業としている企業は一番馬鹿にされている。(その次が受託開発かな)
では「脱却」とは何を指しているのか?
その殆どは「自前でパッケージソフトを開発して直接販売」したり「エンドユーザに対して、直接ソリューション提供していく」などの行為を指している様だ・・・

言葉をIT産業に戻そう。小生の勝手な見解を言わせて頂くなら「世の中に「IT産業」なんて産業は存在していない」。
もし、そんな産業が存在するならば、それは全て「虚業」である。

「IT産業」に所属する「IT企業」はハードメーカ、ソフトメーカ、通信事業者・・多種、多様に渡る様であるが、一般的にはIT=Information Technology=情報技術である。「情報技術産業」?例えば「宇宙技術」「航空技術」なら解る。何かしらのIndustryに対するTechnologyであるのに対して、informationはそうでは無い。
辞書を調べるとInformation Technology=情報工学となる様だ、小生は英語全く駄目なのでボロが出そうだが、技術そのものが産業になる事なんて本来ありえない筈だ。例えば、数ミクロンという単位で金属を削れる職人が揃っている金属加工技術会社です。なんてありえないのだ。

・金属加工のスペシャリストを派遣する「人材派遣会社」です。
・金型等を数ミクロン単位の精度で削る「金属加工会社」です。

のどちらかだろう。

更に続けよう。

基本的にIT企業という言葉で語られる成功企業は、「ショッピングモールの運営」であったり、「携帯電話の販売」であったり「金融商品の販売」であったり「ゲーム、娯楽を提供、販売」「本の販売」「広告収益で稼ぐメディア」であったり「電子文房具」や「電子大福帳」を作っているメーカであったりする。
もちろん裏にはネットワーク機器のメーカやサービス企業がいる。そのさらに裏にはOSメーカやらもあり、ちゃんと川下である一般消費者に対して明確な価値提供が行われており、川上からバリューネットワークが構築されているのである。
然るに、情報技術だけでは何の経済的価値を生むことは無い。

話がだいぶ飛躍したので戻し、5年ほど前、ネットでブラック企業の最右翼とされるシステム会社の幹部と話しをした際に聞いた言葉を紹介しよう。
その人は「うちがここまで大きくなり成功したのは、決して上流工程に手を出さなかった為だ」と言い切った。

その当時、その会社の新卒採用は1000名を超えていた。当然、彼ら(彼女ら)もプログラマーなどの下流工程の仕事を、下請けでやっていると限界を感じて来る。キャリアパスに不安を覚え、上流のSEを目指そうとうするのは自然の流れだ。しかしこの会社は規模は大きいが上流を決してやらない為、殆ど30際前後で辞めていくそうだ。
社員達はきっと、自分のキャリアだけで無く、多少の愛社精神からもウチの会社も、もっと上流をやれば会社としても「脱却」できるのに・・と考え憮然と辞めていくのだろう。容易に想像がつく。
が、その会社は実は意図して「脱却」しない様にしているのだ。
まさにブラック企業の面目躍如といったところか。。。

しかし、考えても見て欲しい。小生の知る限り日本の「IT産業」とやらの6割位は、単なる「人材斡旋業」だ?いくらカッコつけようが、契約形態が派遣契約じゃなかった所で、「脱却」したいと口だけ言ってみたところで、その中身は単に「労働力」という価値を提供してるだけに過ぎない。すなわち、経営者は、労働力を採用し、その労働力を必要としているところを見つけてきてマージンを稼ぐという斡旋稼業の元締なのだ。それ以外の価値を提供しているならば、教えてほしい。(まさかJavaに強いとか、コンサル力とか、ERPに自信有り、とか言わないよね。)
結局この6割の中でも、成功している企業は、自分達のビジネスが「人材斡旋業」であるとしっかり定義して、割り切った企業ではないだろうか。即ち可能な限り安く商品を仕入れて、可能な限り高く売る。この場合の商品は社員だ。引き受けてのない社員は在庫だ。高齢、高給の社員は仕入れ値が高い。そういうものを排除できる仕組みが必要だ。だからブラック企業と呼ばれる。よりディープに、法律すれすれ、モラルは捨てろ!ブラックに徹しきる力が成長の源だ。ディープブラック!ハードブラック!・・・(失礼!)


「受託開発や請負派遣だけではもうやっていけない事は解っているので、何とか脱却したいのですが・・・」

真面目に答えるならば、

「あなたの会社が提供している価値は何?」

「小売業?メディア?ゲーム会社?金融業?広告代理店?違いますよね」、「人材斡旋業ですよね。労働力を売っているのですよね?」
ならば「人材斡旋業から金融業や小売業、文房具メーカとかに業種転換したいの?」「なに業がしたいの?」「そんな事出来るのア・ナ・タに・・・」

それとも「もっといい客に高く労働力を売りたいの?」だったらかっこ良い事言わず、ちゃんと腹を括るべきでは?その代わりア・ナ・タは立派な「ミニブラック企業」の経営者ですよ。
「単なる人売り見たいな事はしたくない?」だったら「貴方にとって理想の斡旋業を経営してみては?」

「IT産業」・・・この言葉がギョーカイの経営者を甘えさせている気がしてならない。
そんな産業は存在しない。と思う。
決して、苦しむ人を小馬鹿にするつもりはないけれど、本当の意味で日本がIT大国になるならば、こういう経営者達のレベルアップを期待せずにはいられない。

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