2009年9月7日月曜日

売上のジレンマ

最近、色々な経営者の方に「売上を一次的に落としてでも○○すべき」です。
と言っている気がする。

もし仮に小生がコンサルタントだとすれば、とんでも無い事だ。
「売上を3倍にする」とか「必ずコスト削減できる」とかそういった売り文句のコンサルタントは掃いて捨てる程存在するが、「売上を落とすコンサルタント」ではシャレにならない。

例えば、前職でも「で、それやると幾ら売上伸びるの?そういう事例はあるの?」
という言葉はクライアントから頻繁に聞かれた。
心の中では「上がるか!ボケェ!」と言いたい処をぐっと抑えて、「それは貴方方次第ですよ」っと、優しく説明した。もちろん売り込まれている方は「また怪しげな奴が売り込みにきやがった。うち社長はこういう連中に騙され易いからさっさと追い出してやろう」位に思っている訳だから、話がかみ合う筈も無く追い出される。

しかし、仮にも社長に「売上を落とせ」と、のたまうからにはそれなりに覚悟がいる。
企業にとって「売上」は全ての源だ。幾ら「利益重視」といった所で、「売上」がなければ「利益」もへったくれもない。

ところで「パレートの法則」というのをご存じの方も多いだろう。売上の80%は20%の製品で稼いでいるとか、2割の営業マンが8割の売上を稼いでいる。とかいわゆる2:8(ニッパチ)の法則とか言われているアレだ。
例えば5つの商品を展開する会社で、商品Aが全社の売上の8割を稼いでいるとしよう。残りのB、C、D、Eという商品は、一応、カタログには載っているが、殆ど売上を挙げていない商品群だという事になる。しかし、それらの商品であっても、製造したり、販促物を作ったりの手間暇は、主力商品Aと大差ない。
だからと言って単純に、B,C,D,Eからは撤退して、商品Aに注力すれば良いという問題では無い。

商品Aが、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が提唱して、一時期ブームになったPPM(プロダクト・ポートフォーリォ・マネジメント)でいう所の、「花形商品」(市場成長率が高く、相対シェアも高い)であれば良いが、「金のなる木」(市場成長率が低く、相対シェアが高い)であれば、収穫期であり、しばらくすれば、「負け犬」に落ちてしまう。市場成長率が高く、自社のシェアが低い分野を見つけ投資していく必要がある。(PPMでは「問題児」)

そう、主力商品Aが、これからも明らかに伸びて行く市場であれば良いが、ジリ貧になる事が解っている市場だった場合、明らかに別の「打ち手」が必要になってくる。それを既存商品群から探すか、全く新規に開発するか、のどちらかである。もちろん米国流であれば収穫期を終え、負け犬に落ちた(落ちそうな)事業なり、商品なりは、とっと売却して、新しい成長分野はよそから買ってくる。で良いが、日本企業でそんな事は難しい。
(日本で経営と執行の分離と言う言葉が流行り執行役員制度がかなり普及したが、向こうでいう経営は、こんな事ばかり考えている人達の事で、物作りへの愛着や、現場への拘り、なんて皆無な人達といったら極端だろうか?社員や事業に愛着のある日本の経営者はそこまでドライには考えられないという点で)

さて、主力商品Aが収穫期から「負け犬」への移行期にあるとしよう。何しろ全社の8割の売上を誇る商品だから、ほっておけば会社ごとジリ貧となり、やがては倒産となる。
この事は解っている。何か手を打たなければまずい・・・・しかし現実は何一つ変わらない・・・変えられない。

小生はこれを勝手に「売上のジレンマ」と呼んでいる。
何故か?「今まで自社の成長を支えてくれた愛着がある商品だから」というのもあるかもしれないが、殆どは「売上」が原因だ。
例えば、この会社の商品全て、高額かつ、商談期間が1~2年掛るとしよう。会社の年商は50億。
去年の商品Aの売上は40億という事になる。市場の衰退によって、今年は前年比9割の36億に落ちるかもしれない。しかし、逆ににいうと、人や金という資本の投下を去年と同じ配分で行っておけば、36億はキープできて、全社では46億の売上が保てるのだ。
逆に、商品Cを次の成長ドライバと捉え、人や金を大量投入すればどうなるか?商談期間が1~2年だから、今年の商品Cの売上は、前年比同様の2億(10億/5)に留まり、リソースを割かれた商品Aは、一気に売上が落ちてしまう可能性が高い。仮に20億位まで落ちれば、全社の売上は30億にまで下がる。しかも本当に商品Cが次期主力商品に育ってくれる保証はない。

さて、こんな極端な例を出すと、「そんなに単純じゃね~」って言われそうだが、「売上のジレンマ」は、もっと現場レベルでも起きている。

例えば営業マンであればどうか?

主力商品が、なんとなく市場成長が止まってきている事は肌感覚でつかんでいても、ノウハウもあり、顧客もついている。会社が戦略商品、重点商品への注力を指示してきても、ノウハウも無く、顧客も新規に開拓しなければならないとすれば、うかうか手を出せない。今までどおり、主力商品をやっていれば、昨年の9割は保てる。いや、営業マンは全体を俯瞰しないので、自分は昨年同様、もしくは、昨年以上の結果が残せると考えてしまう。たまたまその営業マンは昨年以上の成績を収めるかもしれないが、結局全社では売上減となる。

「物売り型営業からソリューション営業」に。という言葉は近年流行った言葉である。
簡単に言えば、自分のノルマを達成する為に顧客の都合は無視して兎に角売り込む。こういうスタイルから顧客が抱えている課題を共有して、その課題を解決する様な提案をしていこう。というものだ。ごもっともな話しだが、「顧客の課題」が自社の製品で解決できない場合はどうするのか?
「弊社の商品では、今回の課題は解決が難しいです」と素直に言えば、確かに長期的には信頼を得られ、後々の売上に繋がっていく可能性はある。
しかし解決ができなくても「大丈夫です。コレ買って貰えば必ず解決します!」と、なんの根拠も無く売り込めば、一時的な売上は上がるが、顧客の信頼を無くし長期的には駄目になる。
ノルマに追われているのに「一時的に売上が落ちても、長期的に見れば・・・」と考える殊勝な営業マンがどれほど居るだろうか?
経営者だって「ソリューション営業の実践」とか、上辺では格好の良い事を言っておきながら、イザ、期末で売上が足りないと、「何でもいいから売ってこい!!」と、檄を飛ばす人が実に多い。

他にも、顧客ターゲットなんかもそうだ、「ポテンシャルがあるが自社のシェアが低い顧客」をターゲット顧客として注力していく。期初には、それこそコンサルとかに騙されてこんな方針を出す。しかし、現実問題、ポテンシャルがあるが、自社のシェアが取れていない顧客というのは競合とベタベタな企業という事になる。こんな顧客に種まきからコツコツやっていたら、売上が上がるのは何時の日になるか解ったものでは無い。
それより、今付き合っている顧客から、安定して売上を上げた方がよっぽど現実的だと考えるだろう。
「ターゲットに注力していたら、今年は売上ゼロでした」って許して貰える会社なら良いけど・・・
(でも上記三点位なら、経験上、実際にはそれほど売上落ちない)
こういう事が重なって、結局は「売上」がハーメルンの笛吹き男となって、悪い方へと行進していってしまう。

結局、経営者であれど、いや経営者であるからこそ、頭では解っていても「売上が落ちる」という現実に、建設的に向き合うのは難しい。迷う。ためらう。しかし、病気を治すには、時は、外科手術や劇薬を飲む(痛みを伴う)必要がある時もあるのだ。

「契約頂ければ、必ず売上を伸ばします」と気持ちの良い事ばかりを言うコンサルタントを信用しますか?
(結構、一時的な売上を伸ばすのは簡単。例えば訪問件数ノルマとか、テレアポノルマとか徹底して物量を増やす。質はトークスクリプトをロープレで徹底的に仕込む。今までダラダラやっていた組織はコレだけで、一時的には売上は上あがる。しかし結局こんなことで伸びるのは、今まで手抜きをして落ちていた、ストレッチ部だけで、結局はマーケットに淘汰される)

本気でクライアントの事を考えていれば、時として建設的に売上を落とす為の背中を押して上げる事も重要だと思うのだ。だってほっとけばどのみち倒産なのだ。
もちろん死ぬ直前のクライアントに、外科手術を強行すれば体力が持たず、そのままご臨終になってしまうので別の方法が必要だ。
そうなる前に、売上を落とすコンサルティング。如何でやんすか?
(やっぱり駄目だよな~)

2 件のコメント:

校長 さんのコメント...

経営者は結局決断できません。
売り上げや利益、それ以外に自分の事業の目的を持つことができなければ。

そういう意味では経営人材は日本で明らかに不足していると言えますね。

ヤマトの小倉さんが三越を切ったときのような決断をできる経営者が望まれます。

bukubukumaru さんのコメント...

校長。

短期的な成果が求められる、サラリーマン社長や上場会社は難しいですが、オーナー企業の場合、結構、決断しますよ。
小生の場合、決断はしているが、ブレそうになっている処を後押ししているといった方が近いかもしれません。
長期的な視点で事業の成長を考えられるのは日本型の強みでしょう。
他方、スピード感はどうしても遅くなって、ダイナミズムに欠ける感も否めませんが。